2011年11月30日水曜日

【本】鉄の骨(池井戸潤)

直木賞作家池井戸潤さんの『鉄の骨』がようやく文庫化されましたので、読んでみました。ちなみに昨年夏にNHKでTVドラマ化されていて、その時から興味のあった小説です。
読後感を簡単に書いておくと、池井戸さんが本当に正しいこととは何かと葛藤しながら、立ち返るのはやはり公平公正な競争であったということだったのでしょう。「談合」という、一見業界全体を調整で救い共存共栄を目指していく日本特有の旧来からのシステムは、しがらみや利害関係、業界を守るためになかなか抜け出せないだけの悪しき風習であったようです。

この「談合」をテーマに主人公の平太が悩みながら沢山の人々とのかかわりの中で成長していくのがこの本のテーマだったようですが、社会人10年目の私にとっては、平太の先輩である西田吾郎の立ち振る舞いや仕事っぷり、考え方や発言にはっとさせられ、色々と振り返るきっかけになったのかと思います。
印象的だったのが、地下鉄工事発注のためのコストダウンが限界になりながら、さらなるコストダウンを他部署の部長から強要されたときに、彼ははじめこそ憎まれ口だけ言っていたのが突然理路整然とそのコストダウンの限界について説明し、更に誰もが納得せざるを得ないような対案を出してメンバー全員を納得させてしまったシーンです。仕事の中でできないことに対してああだこうだと言い訳がましく自己を正当化することは誰にでもあることだと思いますが、この西田はなぜダメか、そして代わりにどういう方法があるのかというところまで結論を出してしまうところがすごいのです。
実はこれは尾形常務の指示だったようですが、それを忠実にこなしてしまうあたりが、西田のTHEサラリーマンたる所以だと思います。

色々と思うところもありつつ、この本を読んでいてやはり感じてしまったのが、ゼネコン業界というのはやはり成熟している、そしてゼネコン構造と言われる我々のIT業界は未熟だなーということでした。コストに対する考え方や見積基準、設計手法や品質管理といった項目が非常に高い次元で標準化されているからこそ「入札」という制度が成り立つのであって、我々IT業界、特にソフトウェア業界ではこのレベルに達するにはあと何十年必要なのか途方に暮れてしまいます。ただし、このような状況が逆に言うとこの産業の繁栄につながるのかもしれません。今は何が正しいかわかりませんが、いつしか「談合」が悪いことであると誰もが認識できるような絶対的な基準が我々の業界にもできてくれればいいのに切に願います。そのためにはユーザー(発注者)側もITシステムというものに対して理解を深めるべきだと思うのです。

話は横道に逸れましたが、この『鉄の骨』はこのような性質の小説なので、『空飛ぶタイヤ』に比べて全体的に流れる後ろめたい空気感が世界観を作り出しています。そして、ひたすら純粋な平太やその世界に染まったと思わせる西田や他の登場人物も、その中で必死にもがいている姿がよく描かれている良作だと思います。仕事にもがき苦しんでいるサラリーマン(特に10年選手)は必読です。


2011年11月6日日曜日

【映画】モテキ

※ネタバレあり

映画モテキをようやく見ました!
なかなかロングヒットを続けているようですがそろそろ上映終盤戦のようで、私の地元幕張でも夕方一本しかやっていませんでしたので、娘を実家に預けて見てきました。

話はドラマ版から数年後の世界つまりリアルタイムな現在を描いた物語で、しっかりとtwitterやらナタリーやら、ポップカルチャーを背景に登場人物たちが縦横無尽にオシャレスポットを駆けまわる世界観が表現されていました。
藤本がPerfumeと踊り狂ったのは、あれはさいたまスーパーアリーナ周辺ですね。あそこは天気がいいと最高の場所です。ちなみに、東京事変『キラーチューン』のPVもあそこで撮影されています。幸世とみゆきがデートしていたおしゃれ立ち飲みBARはどこでしょう。恵比寿あたりでしょうか。愛が登場したガールズバーは三宿に実在するらしいです。などなど、今回もドラマのときと同じようにこうやって印象的なスポットが虚構現実問わずたくさん登場したのでした。
しかしながら、やはり全体的な構成として映画向けにまとめられてしまったなぁと苦言を呈してみると、

  • 中盤以降、幸世の脳内ひとりごとが聞こえなくなってシリアスになりすぎ
  • なんかよくわからないがハッピーエンドっぽい終わり方
  • 結局幸世がみゆき一途だったのは、ちょっとありえない

ドラマのモテキを見ている人間としては、やはり映画がシリアスすぎた感があります。特に中盤以降はもうちょっと笑いを取ってほしかったです。それと、幸世のキャラは、どっちつかずであっちもこっちも好きで結局誰も選べないっていうのが定石であるべきだと思いました。そんなところに多くの同世代の男性が共感し、多くの同世代の女性が興味深く見守ったはずだから。

とは言いつつも、やっぱりこのドラマというか映画の醍醐味のひとつである音楽については最高に楽しめました。一番鳥肌もんだったのがくるりの『東京』が流れ出したシーン。知っている曲の良さを再認識。このドラマというか映画を見ていると、自分版モテキ音楽をMIXしてみたい衝動に駆られますね。